天魔王×蘭兵衛 ─02.12.2up 400x600pixel 56kb
続きは奥でと促された部屋。そこにあったのは、揺らめく蝋燭の炎、ぼんやり浮かび上がる無数のしゃれこうべ、白い盃、血の色、血の味、血の匂い……
「私が欲しいのはただ一つ、お主だ森蘭丸」そう告げる殿の声、殿のまなざしと殿の腕。
いや違う、これは天の殿ではない。そう頭の片隅に響くもう一人の自分の声も、部屋に広がる血の匂いの前に徐々に薄れて行ってしまう。自分をまっすぐに捕らえる天魔の眼差しに抵抗するように僅かに首を捻る、と拍子に、目線の端が脇に控える二人の男をとらえた。
「どうか…どうか人払いを」
やっとのことで絞り出した一言を、天魔は簡単に退ける。
「こ奴等は我が目我が耳我が手足、人払いには及ばぬ。奴等は八年もの間、私の影となり十分に働いてくれた。…かつてお前と大殿がそうであったようにな」
そう言って高らかに笑った。
「それに…この名で気付かぬか? 胡蝶、龍舌」
名を呼ばれて男達が顔を上げる。
「奴等は、お前でもある。のぅ……阿蘭」
懐かしい呼び名が頭の芯に響き、くっと盃を仰った天魔の唇が近付くとやがて、また血の味が口の中に広がった。
唇や舌の形に蘇る不思議な感情、それは八年前の記憶なのか、ただ血の匂いに酔ったのか…。それを確かめる隙のないまま、すぐに唇は離れていった。瞬間、条件反射のように伸ばしてしまった手は、すぐにがしと後ろから捕まれてしまう。
「そうか、もっと欲しいか、蘭丸」
にやりと満足そうに笑うその表情とは裏腹に、天魔はするりと身をかわし背後へ回り込み「今一杯酒を持て」と盃をさし出した。胡蝶と呼ばれた男が軽く返事をし、血の色の酒を注ぐ。天魔はまたその盃を呷り今度は背後から唇を重ねた。
―――違う違う違う……
従ってはならぬという自戒の声と、甘美な過去からの呼び声。頭の中には二つの声が鳴り響き、もはや自分がどちらに従うべきなのかも分からない。その内に天魔の舌は首筋へ下り、背後から抱えるように伸びた手は着物の襟をとらえた。
「さあ、楽しもうぞ、阿蘭」
部屋は薄闇。相変わらずの血の匂い。
やがて部屋の中には天魔の声だけが響く。
「今宵は、宴だ」
「髑髏城の七人 -Seven souls in the skull castle-」
中座 1997年9月25日〜28日
愛知厚生年金会館 1997年9月30日〜10月1日
サンシャイン劇場 1997年10月8日〜21日
大野城まどかぴあ 1997年11月2日
無界屋 蘭兵衛(むかいや らんべえ)
天魔王(てんまおう)
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