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手のひらのパワー [2006/12/02/02:36]
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 いつもより2割増に賑やかな終演後の楽屋。話題の主は勿論、あのオレンジ色の猫だ。
「いやー久しぶりに見たね、腹出しマンゴ」
「分かってましたけど生で見ると威力ありますね。笑って歌えなくなるかと思いましたよ」
 色々あって突発的にキャストが変わるのは良く有ることだけれど、今日のはなかなか強烈だった。4年もやっていない役を急に振られるのもそりゃあ大変だっただろうが、周りの俺たちだって相当大変だった。何せ、あの伝説の接触過多マンゴジェリーだ。
「オツカレ、でしたー!」
 シャワーを浴びて人間の姿に戻ったその話題の主が帰って来た。
「よ。今日のMVP」
 芝さんにポンと腰をたたかれ、本人は「?」という顔で笑っている。
 確かに彼は頑張っていた。4年のブランクは相当きついはずなのに、見事に昔のままのマンゴジェリーを勤め上げた。それはもう、つい10日も前にはリーダー猫を務めていた同じ人間とはとても思えないほどに。好奇心旺盛で甘えっ子で、老若男女を全く問わず近くに居る猫にひっつきたがる癖は健在だった。
 自分がマンカストラップとしてそのマンゴジェリーを眺めていたのはもう4年も前になるのか。その後、自分と同じマンカスの役を振られ、そして、自分より若い年齢ながらその役を立派に勤め上げ、今や筆頭マンカスと言っても問題ない活躍をしている。それは褒めたたえるべき出来事なのだが…。自分も新しい役を振られ、もちろんその事に感謝こそすれ不満などあるはずもないが、心のどこかで、軽々と踊る白黒猫に手放しで拍手を送れない自分がいる。
「……?」
 ぼんやりと座っていた鏡前で、ミラー越しに趙宇と目があった。目が合ったとたん、トレードマークの八重歯を全開にして笑ったかと思うと、小走りで近付き、そして、後ろからぎゅっと抱きつかれた。
「福井サン、元気??」
 元気も何も、終演後に体力を残している役者なんているはずが無いじゃないか。自分だっていつもは疲れた顔をしている癖に、……そういえばマンゴの時は何故か不思議に疲れ知らずだったな、ということを思い出す。よっぽど性に合っているのか。4年分年をとり体力も落ちているはずなのに、何処に残っているのか恐ろしい力で抱きしめられ身動きが取れない。やっと離れたと思ったら
「元気でた?」
 とまた笑って、今度はわしゃわしゃわしゃーーーっと。一気に頭をなでられた。
 いや、うん、元気…出たというか、君に対抗しようってのが間違いだってことだけはよーく分かったよ。
 ただ一つだけ言っておきたいんだが、あのな。
 人間の姿でそれやられるとすごく困るから、趙宇。

 あと、笑い過ぎです、芝さん。