「For Whom the Bell Tolls」
Written by.綾瀬 2004年8月1日(日)20:55


 リリリとベルのような音が聞こえるのだそうだ。
「あ。」
 悟空が急に宙を見上げる時は決まって鈴が鳴っている。
「な三蔵、こっちと換えて」
 手にしていた饅頭を口に入れる寸前で止めて、向かいの席に座っていた三蔵が手を伸ばしかけた最後の一つとすり替えた。
「…なに今の?」
 食後の一服を楽しんでいた俺は、ひまつぶしがてら何の気なしに戯れに聞いてみる、いや何だそりゃと思ったのも本当だけどさ。
「ん?何って何が?」
 取り替えた饅頭をすでに食べ終えていた悟空は、意味が分からないという顔でこちらを見た。
「何がって。その饅頭とりかえっこよ」
「え?何か変?」
「変てか、意味わかんね。何かちがうのか、それとあれは?」
「一緒じゃん?」
 笑顔で言い放つなコラ。
「じゃ何で変えんの」
「だって、鳴ったから」
 やっぱ鈴か。

 悟空いわく、リリリと響くその鈴は、魔よけと言うか先触れというか、とにかく“何か”を悟空に伝えるのだという。鈴が鳴ったらそこで一回立ち止まると、必ず道は良い方向に進むんだそうだ。へー。
 確かにヤツはかなりのラッキーボーイ君で(悟浄の厄介事背負い込み体質とこれで相殺ですね、とは八戒談。うるせーほっとけ)、悟空の野性の勘というか本能で幸せを嗅ぎ取る能力は尊敬に値する。鈴の音ていうのもきっと、その野性の勘が働くときの彼なりのサインなんだろうと思う。別にホントに聞こえてる訳じゃないだろう。…たぶん。

 それにしても饅頭だ。誰がどれを食べたって、人生に影響あるとは思えない。おい悟空、答えやがれ、と言う俺の疑問は、ほんの数秒後に解消されるとともに、奴の鈴の首尾範囲の広さに恐れ入ることになる。
「こし餡…か」
 手を伸ばした最後の饅頭を口に入れた三蔵の小さな一言と、微妙な笑顔と、それをみた悟空の盛大な笑顔で。
 あーはいはい。すごいよ、お前の鈴は。



・ 書きビトコメント ・

 うちのMacちゃんが、「HDの残量限界っす」とのたまうので;しょうがないなぁと要らないものを整理整頓、していましたら、こんなのが発掘されました。
 あれ?これ載せてないよね??
 いや多分、当時自主ボツにしたんだと思うんですが、今となってはその基準が思い出せないので、せっかくなので再利用、とばかりに載せてしまう事にします。
 …載せるほどのものじゃ、というのは、そりゃまあ今でも思いますけども;;

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