「Go by bicycle.」
Written by.綾瀬 2004年01月26日(月)03:07


この男の間の悪さと言ったら他に類をみない訳で、
よりによって三蔵も悟空も留守番なこの状況で、
ジープも一緒に留守番チームに置いてきたと言うのに、
つまりはその程度の気軽な買い出しの途中で、
よりによって、
自ら進んで、
しなくてもいいのに、
転びそうになったお姉さんを支えようとしてバランスを崩し、手に持った荷物を地面に放り出した挙げ句、見事に足をくじいてくださるとは。
全くあきれ果てて言葉も出ない。

「たぶん折れてると思うのよ、コレ」
 荷台に乗せた男から、まるで深刻そうでない言葉が聞こえた。
 そんな申告、今の状況にまるで必要ないどころか、かえって神経を逆撫でするばかりだ。一人で歩けない大男と、その手をあてにして買い込んだこの荷物(しかも放り出してくれたおかげで卵なんて壊滅です)を目の前にして、怒鳴り付けないだけまだ紳士的だと言うもので。
 例えそれが、ハンドルが曲がり昼間だと言うのにライトを消せないようなオンボロだとしても、道端に打ち捨てられていたこの自転車を発見出来た事を感謝すべきくらいなんです。だから僕はこうしてなんとか、貴方と、荷物を運ぶことが出来るんじゃないですか。

「悪かったと思ってますってば。でもこーゆーのが男の勲章、って奴でしょ、目の前で美人によろけられたら助けるでしょフツー」
 状況説明というか言い訳というか、自転車に乗ってからずっと、そんな調子で悟浄は喋り通しだった。しかしながら相変わらずその声は穏やかで、だからこそ神経をサカナデする。
「少し黙っててください。誰のおかげで僕がこんなに重い荷物運ばなきゃならないハメになってるんですか?」
「荷物は持ってるじゃん」
「その荷物を持った貴方を乗せて漕いでるんですから意味ないです。貴方は吉四六さんですか」
「…なにそれ」
「知らないんならいいです」
 まったくもってサカナデする。

 自分は一体何に苛立っているのだろう? 悟浄にか、それとも?
 とにかく今は、背中に感じる悟浄の気配が重い。彼の声を聞いていたくない。
「いいから少し…黙っててくれませんか。こっちは必死で漕いでるんですから」
「何もできないのでせめて応援してようと思ったんですが。オレ今喋ることぐらいしか出来なくてヒマだしさ、ほらカーラジオかなんかと思っていただければ」
「静かにしてないと舌を噛みますよ」
 そう言ってわざと砂利道を選んで自転車を走らせた。悟浄の声はもうしない。

 がたがたと道に合わせてオンボロ自転車がきしむ。それに合わせて、背中に他人の体温が触れたり離れたりする。
 イライラする。
 …ああ、自分は何に苛立っているのだろう。
 背中に体が触れるたび、自分の体温が、一度一度、上昇していくのに腹が立つ。
 砂利道をすすむオンボロ自転車が悲鳴をあげる音が、やけに耳につく。静かで、うるさい。
 イライラする。

「………何か喋っててくださいよ。間が持たないじゃないですか」
「黙れって言ったのそっちじゃん」
 そんなこと分かってます。
「まいいけどね。じゃねー、むかしむかし…」
 なんて事ない昔話を語る聞き慣れた悟浄のその声が、やっぱり気持ちをサカナデる。うるさい。聞いていたくない。

いっそ自転車から振り落としてやろうか?

 その小さな作戦は決行され、漕ぐ足に力が込められた。砂利を一つ二つはね飛ばして、自転車がガクリと揺れる。
「うわっと」
 慣性の法則で悟浄の体は一度ぐらりと後ろに振られ、その後すぐ、バランスを取るため前へと倒された。振り落とされないようにと、悟浄の腕が回される。背中に、体温。今度は心音さえ伝わってくる。
 ああ五月蝿い。五月蝿くて、心地よくて、イライラする。
 このまま宿まで辿り着かなければならないなんて。

なんてことだ、作戦は、大失敗だ。



・ 書きビトコメント ・

 うーん、なんかイマイチまとまりが悪いというかオチが不発ですが…またこれも実話からネタ発想です; 職場が近いもんで自転車通勤な私と部長。その自転車で3人が移動することになり、結果的に二人乗りになり、その辺りからネタが発生しました。
 しかしなんか八戒が乙女っぽい…不本意…つか、骨折ぐらい直せる気もしたけど気にしない気にしない;

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