「Cafe for two」
Written by.綾瀬 2004年02月06日(金)02:25
朝はコーヒーからっしょ。 切らさないでよ、八戒 主のいない家を守る昼下がり、少しばかり買い物に家を開けようかと玄関に向かうと、ふと上げた目線の先にそんな文字が飛び込んできた。それは同居を始めたばかりの頃、生活時間の違う二人の為のコミニケーション手段にと買ったホワイトボード。結局初めの数週間に何度か書いたきり意外に使いどころが難しくそのまま放置され、既にその存在自体を忘れかけていたものなのだが、そのホワイトボードが珍しく、本来の役目を全うして小さなメッセージを伝えていた。はて。これは一体、いつから書いてあったのだろう? インクの乾き具合からしてもそれほど昔とは見受けられないが、使わないまま放置してはや何ヶ月か、毎朝チェックしている自信はまるでなかった。数日か、悪ければ1週間は、気付かずに過ごしてしまっていたかもしれない。…コーヒー? そういえば…? 冷蔵庫の上に目をやれば、そこには確かに、ぺしゃんこになった空の袋の姿があった。しまった、僕としたことが。 もともと自分はコーヒーよりお茶派で、この家に住むようになってから毎朝のコーヒーが生活に組み込まれた人間なのだ。だから今でも、うっかりするとこんな事になってしまう。それにここの所ちょっと雑事に追われ忙しく、まともな買い物に出ている時間もなかったから…そう言えばしばらくコーヒーを入れた覚えがなかった。果たして一体、いつから切らしてしまっていたのだろう? そう思いながらホワイトボードをもう一度見る。いつから書かれていたのか…いやだいたいこんな事くらい、言うチャンスはいくらでもあったはず、現に夕べだって食事もその後も一緒に過ごしていた訳だし。うっかり言い忘れたとして、メモで伝えるにしてもこんな忘れ去られかけたホワイトボードなんて今更使わなくても、紙切れ一枚テーブルに残せばすむはずなのだ。それを、なぜ、こんな所に? 分かっている。それが悟浄の、あの人なりの「やさしさ」だということを。コーヒー党に付き合わせているという引け目でもあるのか、買い物を押しつけてるという負い目なのか。いやそもそも、コーヒー豆一つぐらい自分で買う事など雑作もない事な訳で、実際今までにも彼が勝手に買い物をする事などいくらでもあったのだ。…そう考えて思い至る。そうだ、あの人は、優しすぎるのだ。こうやっていつでも僕にきっかけをくれる。それも、とても静かに。そう、だから、使われなくなって久しいこんな所に記したのだろう。 ならば。ここから先は僕の「やさしさ」 最後に鍵を開ける権利は、貴方に預けましょう。 そうとなったら今日の買い物は中止、コーヒーにはもうほんの少しだけ忘れられたままでいてもらいましょうか。ボードにくくりつけられたペンを握ると、その密かなメッセージの下に、更に小さな伝言を書き連ねた。 さあ、買い物は中止だし、時間が空いてしまいましたね。仕方がないから少し豪華な夕飯でも用意しましょうか。食事の間の会話が弾むような、食後にゆっくりと明日の予定を話し合えるような、そんな空間が必要ですからね。そう、悟浄なら、あのボードのメッセージを、すぐに見つけてくれるでしょうから。
・ 書きビトコメント ・ また実話ネタです(笑) <得意技:ネタ拾い。 職場から近いもんで、よく回りメンツが泊まりにくる我が家。しかも勝手に起きて勝手に出て行かれる無法地帯っぷりなのですが、たいてい出て行く前に置き手紙が置かれておりまして。それがある日、部長がホワイトボードに残したのが、上のコメント、という訳で。 コーヒーが無いのは確かに本当なんですが、キャラで来られちゃあなあ…キャラで返した方がいいのか?とか考えてたら小ネタ発生しました。……はい。ネタは無駄にしませんわたくし。(貧乏性) |