「君がいないなら同じ」4
Written by.彼方 2005年12月18日(日)23:49


帰り道。
ふと、八戒の家を振り返る。
積もり始めた雪のせいでもう灯はみえない。
ついでに自分の足跡もどんどん消えてく。

「…なんだか…」

また独りだ…。

まだ独り…?

やっぱり…独り…


足跡がなるなるたびに「俺」がいなくなる気がした。
消える足跡に負けないように歩きながらふと思った。


これは夢なのかもしれない。


目が覚めたら、八戒も牾浄もいなくて。
あったかいご飯も部屋もなくて。
意地悪も、みんなみんなないのかもしれない。

そう考え始めたら自然と足がとまった。
上をみると白い雪がふわふわと落ちて来る。
まるで俺を消したいみたいだ。


「…っ…」


外に出たいと思ってた。
それだけだった。

だって、外に何があるかなんて知らなかったから。

あの瞬間。
俺の太陽に出会うまで。




「…いつまで待たすんだ、猿が」


いつの間にか三蔵が目の前にいた。
気付かなかった。

「…」

「…なんだ」

驚きすぎて固まった俺を面白そうにみる三蔵。
だって、雪の中の三蔵なんて綺麗すぎて恐い。
白い世界の金髪が綺麗だ。

「…これから仕事…?」

そうでもなきゃ、寒い中わざわざ出てこないよな。
あ、やばい。
また泣きたくなってきた。


「…こんな日に仕事なんてしてられるか」

良かった、仕事じゃないんだ。
あれ?

「こんな日?そういえば八戒もそんな事言って…」

三蔵は突然、手に持っていた上着を俺に投げてきた。
そういえば泊まるつもりだったから上着なんても持っていなかった。
自然に笑った俺を肩越しにみた三蔵は雪道を山に向かって歩きだした。

「へ?ちょっ…三蔵…!」

俺の問いには答えずにどんどん山の中に入って行く。

「なぁ、どこまで行くんだよ」

この先に行っても崖になるだけだ。
春に俺が見付けた見晴らしの良いところ。

丘のとある場所で三蔵が止まった。
三蔵の視線の先には1本の大木がある。
となりに立って同じように見上げて見た。

「…ぅわぁ…」

見上げるまで俺は雪がやんで、夜空が顔を見せていた事に気付いてもいなかったんだ。

見上げた先の大木。
ちょうど、この位置からだと、てっぺんに月が見えて、枝の間からは星が透けて、なんだ
か作り物みたいだ。


…いったい俺はどれくらい見続けていたんだろう。

「…八戒はなんだと?」
煙草に火をつけながら小さく聞いて来た。
「ん?今日が何の日か三蔵に教えてもらえって…追い出された」
そうだった。
俺さっきまで、ものすっごく淋しかったんじゃんか。
「それってこれに関係あんの?」
「……」
「なぁ?」
「一応、クリスマスらしいだな」

くりすます?

聞き慣れない単語に首を傾げると、三蔵は言ったのを後悔したように小さく舌打ちした。
こういう時の三蔵は逆らわない方がいい。
ちょっとだけ黙ってみた。
「…おい」
三蔵が俺をみた。
言葉にされなくても分かる。
俺は素直に三蔵のコートの中に入る…あったかい…。

「クリスマスは行事の1つだ。仏道のものではないがな」
よくわからない。
「お正月みたいなやつか?」
「そんなもんだ」
「ふぅん」
あとで八戒に聞いたら説明になってないと笑われた。
悟浄は「せめて誕生日くらい言えよな」と笑った。
たけど、ふたりともちゃんと教えてくれた。

三蔵はどうやら『くりすますつりー』をみせたかったらしい。

悟浄曰く「生具さ坊主様はロマンチスト」らしい。
…よくわからない。

でもわかった事もある。

凄く忙しい三蔵がその日の夜と次の日はお休みだった。
みんな困ってたみたいだけど、「やる事はやった」と言って三蔵はずっと俺といてくれ
た。
だから俺を構ってくれなかったんだ。
でもそのせいでまた忙しくて、俺はまた八戒のところに来ていた。
また追い返されるかと思ったけど大歓迎された。
理由は大掃除をするところだったかららしい。



昔はただ外に出たいだけだった。
何があるか知らなかったから。



でも今は違う。

大好きな人たちがいる。
ずっと一緒にいたい。

離れたくない。

離さないでほしい。




大掃除をしながら八戒が言った。
「悟空、来年はうちでちゃんとクリスマスツリーを飾りましょうか。さすがにお寺はまずいでしょうから」
「いいの!八戒!」
「…ここ、俺んち…って、聞いちゃねぇし。ならターキーも用意しろよ」
「…薪?」
また知らない言葉。
「鳥料理ですよ。美味しいですけど、それなら来年のクリスマスまでお預けですね」
「え〜!」

文句を言う俺をみてふたりが笑った。
俺もつられて笑った。

きっともうすぐ三蔵が来る。
そうしたら駆け寄って抱き付こう。
きっとふたりにはあきれられるけど、クリスマスをありがとうと、向かいにきてくれてありがと
うと…俺を連れ出してくれてありがとう…。



HAPPY Christmas!!
来年もみんなで一緒にいられますように。



・ 書きビトコメント ・

<by.綾瀬>
 というわけで連作でした。といいつつ私のコメントのみですが; 簡単に経緯だけは説明しとかないと。
 ある日彼方さんからメールが来ました。「続き書いて!」と。何のことやらと詳しく聞くと、「<彼方> タイトルを考える」→「<部長> 冒頭の詩のようなものを書いて彼方へ返信」→「<彼方> 続きを書く」という経緯で→「<綾瀬> に回ってくる。が、なにやら伏線めいた設定が有り、どうすんのさコレと彼方に伏線返し」→「<彼方> 最後をなんとかまとめる」という流れだったのでした。
 作風はえらい違うは、微妙に設定等かみ合ってないところがあるはですが;そこは企画モノのご愛嬌ということで。
 本当に雪が降ってきそうな寒さの聖夜に。

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