09/21 「dividing line」
Written by.綾瀬 2004年09月21日(火)04:00


 午前4時は早朝だろうか、深夜だろうか。
 眠れないままこのくらいの時間になるといつも考える。身を起こし少しだけカーテンをたぐると、世界はまだ充分に闇で、しかし、どこかうっすらと世界には人の動く気配がある。それが、4時だ。
 片手でカーテンを握ったままぼんやりとそんなことを考えていると、なに、どしたの、と隣で眠っていた悟浄がぼんやり目を開け話しかけてきた。
「ごめんなさい、起こしちゃいましたか」
「ん、べつに」
 大して気にしていないことは、いまにも再び眠りに落ちてしまいそうなその喋り方で充分に知れる。たぶん悟浄にとっては、寝返りついでに声をかけてみたくらいの軽い気持ちしかないだろう。それが何故か急に悔しくなって自分は言葉を続けた。
「ちょっと考え事してたんです」
「あ、そーなの? 何?」
と改めて聞かれてしまうと、別に他人に伝える程の内容ではないことに急に気づいてしまい、慌てて話題を探すハメになる。くるりと部屋を見回すと、壁にかけられたカレンダーが目にとまった。…あれ、そう言えば
「今日って何日ですっけ」
「えっと…20?あ違うか。12時過ぎてんだから、21日?」
 そうだ、21日だ。
「誕生日です、僕。21日」
「あれ、そうだっけ」
 自分でもすっかり忘れていたくらいなので、悟浄が目を見張った事に全く文句はないのだが、だらりと伸びていた手を頭の後ろで組み直し、悟浄が本格的に会話に参加しようという姿勢に変わった。
「なんだよ、もちっと早めに言ってくれればサービスしたのに」
「なんですかサービスって」
「サービスはサービスでしょ」
「別にいらないです」
「じゃ後でケーキかなんか」
「いらないですって」
「じゃ」
 悟浄がいきなりキスをしてきた。
「…これがサービスですか?」
「うーん、どっちかってと、俺のキモチ?」
「気持ちはありがたいですけど、ハタチも過ぎれば誕生日なんて特別な日でもなんでもないです。だいたい誕生日って、この世に生まれて来たことを祝う日ですよね。僕別に、人生ってそこまで意味のあるものって思えないですし、祝ってもらっても…」
 悟浄はもう一度キスをして、そして笑った。
「じゃ、一周年記念」
 え。一周年?
「何かありましたっけ?こんな時期に」
「覚えてねーの?」
 覚えてるも何も。こう見えて悟浄が意外とそういう記念日系にうるさいのは知っているけれど、急に一周年と言われても自分には何も思い出せない。誕生日に重なるような記念日なんて何かあっただろうか。悟浄と出会った…のはいつだか自分には記憶が定かでないし、同居記念日…というのは一体どこからを数えていいのか。まさかファーストキスだとか、ましてやセックスした日付けを処女みたいに覚えておけとでも言いたいのだろうか、この男は。いや、そもそもそれらだって、一周年ということはまずない。
 一年前。自分は何をしていた? 一年前の9月、9月の21日。その日は何曜日だ? どんな天気だった? 晴れていたか雨が振っていたか、どんな服を着ていたか、どこへ行ったか、誰と会ったか、何を話したか。
 一通り考えを巡らせてみたが、何も浮かんではこなかった。
「ごめんなさい、なにか…記念日でしたっけ? 何も思い浮かばないんですけど」
「ん、俺も」
「え?」
「俺も覚えて無い」
 それって? どういう意味ですか。
「覚えてねーけどさ、でも、人間生きてりゃその日に何かは絶対あった訳よ。だからさ。何かを思いさえすれば、毎日どんな日だって記念日なの。そう思ってた方が日々の暮らしにもハリが出んのよ。そーゆーこと」
「じゃあ…」
 何もないんですか、記念なんて。そう続けようとした言葉を遮って悟浄が三度目のキス。
「思った方が勝ちよ。だから、今日は一周年記念日な。おめでと、一周年」
 そう言って悟浄が改めて髪に手を伸ばして来た。その手を、僕は掴む。
 思ったら、その日は記念日になるのだろうか。何も無くてもいいのだろうか。それとも何か、あったんだろうか、ちょうど一年前に、何か。
 一年前のこの日、僕は悟浄にキスをしただろうか。
「分かりました。じゃあ今日は、記念日ですね」
 掴んだ腕をぐいと引き上げると、今度はこちらから唇を寄せる。それと同時に左手でカーテンを閉めようと試みたが、体勢のせいでうまく閉まらなかった。唇をはなし、ちらりと窓の外を覗く。ああ大丈夫だ、このままで全然構わない。だってまだ世界はこんなに暗い。
 耳元へ口を寄せると、小さくけれどなるたけ甘く囁く。
「今度は僕が。もう一回、シてもいいですよね?」
 悟浄の“気持ち”、ありがたくいただきます。
「へ、今から? もう朝よ?」
「いいえ。僕はまだ寝てませんから。夜です。今はまだ」
 そう、思った方が勝ちだ。そうでしょう悟浄。

 大丈夫、世界はまだこんなに暗い。
 午前4時は、



・ 書きビトコメント ・

 ……中途半端ですがこれで終わりです; 八戒さん誕生日ネタです、というより、いつのまにか一周年ネタにスライドしちゃってますが。
 一周年は何の一周年なんだい!?と言うのは当然の疑問だと思われますが、アレです、部長が最遊記にハマって一周年、というのだったりします。去年この日に最遊記オンリーイベントデビューだったのですよ。あれから一年かーああ走馬灯。ちなみに更に、部長の誕生日祝いも兼ねております。八戒さんと同じ日なのですおめでとー。

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