お題/35 「BEAST IS RED」
Written by.綾瀬 2004年03月10日(水)07:15


 何でこんな状況になったのかまるで分からない。
 なんて事のない夜の暇つぶしに、確か「室内と屋外でタバコの味が違うか否か」というような、結論が出た所でまるで人生に益のない話題を戯れに提出したところ、何故か大のおとなが真剣に論じあうハメになり、やがて白熱した論議の売り言葉に買い言葉というかでいつの間にか、寒空の下の屋上で三蔵と並んでタバコをふかす状況になっていたのだ。
 三月に入ったというのに雪が降るような気候のここ数日、吹きっさらしの屋上はとても寒い。足下に刻々と吸い殻を溜めながら、もはや我慢比べの様相で俺と三蔵はお互いタバコを吸い続けていた。
 いーかげん折れろよ、こんな事くだらんとか何とか言い放って部屋戻れよ三蔵。
 …ま、お互いそう思ってるんでしょうけど。
「くそっ」
 明らかに不機嫌そうな顔の三蔵が足下に吸い殻を一つ増やしたのを見て、俺はやっとこの勝負の終わりを予感した。なぜなら、三蔵の手にはもう、潰された空のケースしかないことを俺は知っているからだ。
 タバコが無くなったらもう負け決定だろ。(いや何が勝ちで負けなのかなんて既に全く意味が分からないけどいーんだよ、とにかく勝ちと思ったら勝ちだ) 寒さの上に手持ち無沙汰では、こんな所に長く居られる訳がない。
「…ちっ」
と三蔵が舌打ちするのを聞いて確信を強める。おっしゃ勝ちだ。勝ち決定だ。さあ帰れ、さっさと負けを認めて温かい部屋に戻りなさい三蔵ちゃん?

 三蔵とは何故か、下らないことでも勝負になりがちだ。悟空とは、喧嘩はするけれど勝ち負けがどうこうって感じにはならないし、八戒とだと何て言うか、勝負という言葉自体が不適切な空気になりがちだ。張り合うっつーか何つーか。三蔵にはついつい無駄な勝負を仕掛けてしまう癖がある。実はこれが、結構楽しいのだ。

 やっぱムキになってくれる相手じゃないと勝負はつまんないんだよね。空のケースをぐしゃぐしゃと握りつぶす三蔵をニヤリと横目で眺めつつ、勝者のタバコを味わっていた。薄着の三蔵はすでに手も震えぎみだ。さー三蔵ちゃん、どう出ますかこの後は?
 くるりと振り返った三蔵に勝利のファンファーレを聞いた、と、確かに思ったのだが。

 何でこんな状況になったのかまるで分からない。

「……へ? 何よ?三蔵……?」
 いきなり冷たいコンクリートに押し倒されて、天を仰ぐ姿勢になっていた。おい、こら、ちょっと待て。意味がわかんねーぞ、お前。
「煩せぇ。このままじゃ凍えるだろ」
 いや確かに運動すれば体は暖まるかもしれませんが、だからと言ってこの展開は無理が有り過ぎます三蔵様。
 …と思わず思考回路も丁寧語になろうというもので。
「おい、ちょっと…さんぞ……うわ!」
 そしてごめんなさい前言撤回。今この屋上で服脱がされたら、寒さ倍増。…っだからめくるなっつの!!
 後から考えてみたら抵抗とかすれば良かったんだろうけども、九割九分の勝ちを確信しちゃってたからか、あるいは、持ったままの吸いさしのタバコが気になっていたからか、体を動かすことができなくなっていた。
 いやもしかしたら、三蔵の目が真剣だった、からかも。
「赤は、ケダモノの色だな」
 確かあの時三蔵は、俺の目を見てそう言ったのだ。
 冷静に考えたら意味分かんねえんだけど、つーか、ケダモノとか言うんだったらせめて役割逆でしょうよ?とは思うんだけど、それを聞いた瞬間の三蔵の目が、なんていうかその、とても色っぽくて、アレだよ。なんだかこのまま流されていいような気持ちになっちまったんだよ。

 勝ちとか、負けとか。そんなことは下らない事だけれど。
 くっそー、試合に勝って勝負に負けるってこういうことか?
 冷たいコンクリートを背中に感じながら、赤く光る月ぐらいしか見どころのない空を俺は、それからしばらく見続けるハメになった。



・ 書きビトコメント ・

 35になってますかこれ………!
 途中まで考えてた話がなんとなく58の展開と似てる気になってしまい、仕方ないのでがらりと考え直して組み立て直しました。一晩で。自分でも、「何でこんな展開になったのかまるで分からない。」
 自分の中での三蔵てばかなり総受けぎみで、それというのも「三蔵に行動力がないから」につきるのですけれど、そう言う訳で「三蔵っ!やる気をだせ、出すんだっ!!」と考えてる間中唱えておりましたよ(笑) …あ、でもまだもう一個三蔵攻があるのね自分……ガンバレ、三蔵;

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