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オウンゴール・その後
─02.6.30up


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オウンゴール・その後のその後のその後で完結編 [2002/06/18/(Tue) 17:37]
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 明けて月曜日、今度はさすがに健三の主張が通った。明日は3時まで仕事をし、その後は会議室のテレビに集まろうと。
 その日、仕事のキリが悪くて試合開始を少し遅れて会議室に到着した自分がまず目にしたのは競技場の雨だった。雨脚はけっこう強い。涙雨にはなってくれるなと祈ったのだが、そのまま早い時間に先制点を奪われてしまった。
 自分はサッカーの事などなんにも知らない素人だ。しかしなんだか、今日の試合は予選のに比べてメンバーが空回りしているように見えた。単純なパスミス、惜しすぎるフリーキック、ゴールに嫌われるシュートたち……。
 つい先日まで代表が何人で何と言う人がいるのかも知らなかった。この人が中田か、と言ったら健三には盛大に呆れられた。そんな自分だから、これが決勝トーナメントの魔力なのか、世界を相手に戦うと言うことなのか、そんな事は知らないし分からない。
 だから、ただ、祈った。
 どうか一点をと、神に祈った。
 しかし、祈りは通じる事なく試合は終わった。

 沈黙の空気を破りたかったのかもしれない。木太郎さんが口を開く。
 「残念…でしたね」
 「いやいや、世界を相手にがんばりましたですよ」
 神崎さんが返す。
 「…そうですよね。いい試合でした」
 そう言って皆はバラバラと席を立ち始めた。もう終業時間が目の前だ。
 しかし自分は立ち上がれなかった。
 ぼんやり見つめるテレビ画面の中、雨は降り続いている。時間の止まったグラウンド、涙をこらえきれない観客の顔、肩をおとす選手・監督…

 席を立った皿袋さんが振り向いて言った。
 「あれ…?なぁに社長、泣いてんの??」
 一斉に皆に覗き込まれる。
 まさかそんな、と反論したかったのに口は動いてくれなかった。だから自分は泣いていたのかもしれない。
 隣に座っていた健三がすっと立ち上がり、俺の頭に手を乗せて言った。
 「よしよし。4年後もまた一緒に応援しような」

 4年後なんていったい俺達何才だと思ってるんだ。四十すぎた男が一緒にサッカー観戦なんて寒すぎる。だいたいお前はそれまでもずっと俺に迷惑かけつづけてくれる気なんだろう、そんな事は願い下げ…
 それらもまた、全部言葉にはなってくれなかった。だから泣いていたのかもしれない。

 皿袋さんと目があった。にっこりと笑いかけられた。隣で木太郎さんと神崎さんも笑っていた。健三は──どんな顔していたのか知らない。なぜなら彼は自分の頭の上にいたからだ。
 でもいい。そのまま目を合わさずに部屋を後にしてやる。頭に乗せられた手をはずして立ち上がった。
 「どこいくの?トイレ?」
 まあな、とやっと答えて振り向きもせずに行く。
 なのにその瞬間、なんとなく健三の笑顔が見えた気がした。
 もしかしたらそれは、4年後の自分たちの笑顔でもあるのかもしれない、と思いながら、祈りながら、会議室のドアをバタンと閉めた。