[BIG BIZ 健三×結城] オウンゴール ─02.6.4up
「おーっそこだイケぇ〜!!」
4年に一度だろうが、日本が開催国だろうが、初白星がかかっていようが、そんな事は知ったこっちゃない。なのにいつの間にか我が家でワールドカップ観戦会のはこびとなってしまっていた。…いつもの口先三寸で。
「あーっオシィー!」
酒も入って上機嫌な健三くん(36才)は、さっきから幾度となくおたけびを上げている。その度に一応画面に注視してはいるのだが、自分にはいまいちその興奮が伝わって来ないままだった。
「なあ…」
「ん?」
試合が始まってから約20分。その間ずっと気になっていたことを思いきって尋ねてみることにした。
「おまえさぁ、そんなサッカー好きだったっけ?」
うんうん、実に素朴な疑問。
「うっそ、知らないの?オレ筋金入りのサポーターよ?親子三代生粋よ?」
「…四半世紀の付き合いだが初耳だぞ。だいたい三代前にサポーターなんて言葉はまだない。」
「あれ?結城ちゃんはお嫌い?」
一瞬返事を渋る。べつに嫌いではないが、好きでもない。興味がない、というのが一番しっくりくるのだ。もともとあまり物事に興奮する性格でもないし、どこが勝った負けたはニュースとして結果が分かれば充分だと思う。別に明日の生活に支障が出る訳でなし…
「あーもっとサイド上手く使わなきゃさー」
と結局人の返事も聞かずに、健三はまたゲームに入り込んでしまっていた。
仕方がないのでしばらく又一緒に画面を眺めてはみたが、1チームは11人、ボールをゴールに入れたら稼点、ボールに手を触れてはいけない…等々の基本中の基本ルールをおさらいするぐらいしかできなかった。
そもそもどの程度勝算のある試合なのだか(かろうじて対戦相手がベルギーだと言うことは画面で確認できた)、これに勝つとどうなるのか、なんてことが既にわかっていない。
そんな事は隣ではしゃぐ男に尋ねてみればいいのだろうが、さっきからの異様な集中力に割り込む隙がないのと、一尋ねればその十倍のデタラメが返ってくるのが目に見えているのでためらわれているのだ。
仕方がない。残りはなかった時間と思うことにして、試合をBGMに読書でもして過ごそう。そう決めて傍の本を手に取った。いつか読もうと購入したはいいがちっとも時間がとれなかったのだ。
「いけっそこだっやれっ!あーっなんだよぉー」
あいかわらず健三は試合に夢中。隣に座る男が一緒に試合を見てようがいまいかは別にどっちでも構わないらしい。ならば安心して読書タイムとさせていただこう。
「あーあ、だからダメだって言ってんのにー」
一人でも健三はしゃべり続ける。
「やっぱさ、上手く入れようと思ったらもっと優しく攻めてかなきゃダメなんだよなー。
もっとじっくりじっくり回りから攻めて慣らしてってさ、入れてもOKなタイミングを見きわめなきゃイカンわけだ。そんでここだ!って時になったら今度は一気に突っ込む、これでしょっ!!
まーコトを焦っちゃうまくイかんわなー。相手だってそう簡単に口開いて待っててはくれないワケよ。
いいプレイに大切なのは駆け引きってやつでさー、うまく入れる為にイヤヨイヤヨの隙をどうやって見つけるか、ってのが攻めてく方の技なんだよなー。だいたいさー…」
「……健三くん」
思わず声が出た。
「なになに?結城くん」
「…頼む、少し静かにしてくれ」
「あ、うるさかった?って何赤くなってんの??」
「ばっ」
馬鹿なことをっ!な、なんでサッカー見てて赤くなる必要が、必要があるというんだぁっ!!
「なに動揺して…あ。わかった。」
「な、何が分かったんだっ」
「ははーん。なーに想像しちゃったのかなぁ結城くんったらっ」
「な、なんの事だっ」
「俺はさー、ただ“サッカーボール”を“ゴール”に“入れる”話をしてただけでしょー。しょーがないなー」
「な、何がだっ」
「いーのいーの、わかってるって」
「じゃ、しよっか。」
馬鹿者〜!と叫ぶ間もなく口はふさがれソファに倒され、プチン、とテレビの消される音がした。
「あーっお・お前、サッカー!大事な試合なんじゃないのかあっ!?!」
しかし、人のシャツのボタンに手をかけながら健三はすました顔で答えた。
「あ、別に俺、サッカー特に興味ないし。」
こっちのが大事でしょ、と耳元にささやいて、パッチンと今度は部屋の明かりがOFFされた。
目の前暗転。逃げ場なし。
なんてこった ふざけるなっ ふざけるなっ ふざけるなあっ!
ああもう!金輪際健三の言う事は信じないぞ。
一生だぞ。絶対だぞ。今度こそ本気の本当だぞっ!!!
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