[BIG BIZ 健三×結城] ビガービズ大予告編(※ウソっぱち) ─03.2.9up
健三に突然呼び出されるのは今に始まった事ではないのだが、今日はおかしかった。部屋に呼ばれるとすぐにベッドに座らされ、「はい両手出してー」と言われるままに従ったらなんと、両手にがちゃりと手錠をはめられてしまったのだ。
状況が飲み込めない。だから質問をする。
「…なんだこれは」
「拉致ごっこv」
……………はあぁ??
「ほら、ちょっと前にさ、結城ちゃんやってたじゃん、拉致ごっこ。あれのお返しやってなかったなーと思って」
覚悟は出来ているはずなのに、健三はいつもその覚悟の上を軽々と超えた発言をしてくださる。ら、拉致ってなんだぁ!?
「お返しだと?? 別にお返しする必要のある事じゃないだろ、っていうか、別に俺はそんなことしてないが!!」
健三は顔色一つ変えずに続ける。
「してたじゃーんーー、ほらさ、俺の腕つかんで離さないまま部屋に連れ込んで…」
「だからアレは違うと何度言ったら!!……いや、それよりお前、これ、どうしたんだ一体」
と手錠のついた腕を目の前に持ち上げた。
「あ、それ? やっぱさ、拉致ごっこには必要かなーと思って。俺って形から入るタイプだから」
形からぁ?
「調べたのよこれでも色々と。で、ベーシックにまず手錠かなって」
ベーシックぅ??
──頭が痛くなる。でも寝込んでしまいそうになる前にまだまだ質問がある!
「だいたいコレお前どこで手に入れたんだよ」
「通販。いまどきは便利だねー、インターネットで簡単に買えちゃうんだねえ」
最悪だ、なんてことだ。今ほどインターネットの普及を恨んだ瞬間はない。いや、普及は百歩譲って良しとしても、健三という危険人物にだけは物を売らないシステムを整備しておいて欲しかった。
…などと現実逃避な事を考えてる間に健三はもう次の段階。
「さあてと。お楽しみはこれからねー」
上着を脱ぎながら楽しそうににじり寄ってくる。
「なんだ?何だお楽しみって?」
「拉致った後のお楽しみなんて決まってんじゃーん」
にやりと笑う。
「決まってない、決まってないぞぉっ! それに健三、お前は一つ大きな間違いをしてる。これは“拉致”じゃなくて“監禁”だ!!」
「似たようなもんだって」
「似てない、全っ然似てない。拉致ってのは無理やりに連れて行くことで、監禁ってのは人を一定の場所に閉じ込めて脱出できないようにすることで…」
「結城ちゃん頭硬い〜。この状況で細かい言葉の定義を云々しても人生なんてつまんないでしょ。気にしない気にしない」
…これだ。ああもう、こっちの話なんて聞きゃあしないんだこいつは。これぞまさに暖簾に腕押し、糠に釘。いやそんな、暖簾を腕押した経験も糠に釘を差した経験もないけれど…と思考回路ももはや支離滅裂。
今までの長い付き合いの経験上、ここまで来たらあと自分にできる事はただ一つ、暴れる事のみ! 大声を出し、手足を思い切り振り回せるだけ振り回して、それでも健三は何故か楽しそうで、やがて自分ばかりが疲れ果てて……
+ + +
暗転の後の、明転。
気がついたら朝だった。
体がだるい。そう言えば夕べひどく体力を使ったような記憶だけがぼんやり浮かぶ。
頭も痛い…と手を額にもって行こうとしたら、ガチという硬い手応えに阻まれた。目線を下ろせばそこにあったのは、手錠。それを見た瞬間に意識ははっきりし、夕べの何もかにもが一気に蘇った。
そうだ馬鹿健三め!たたき起こしてすぐにこれを外させなければ。腕にまとわりついたままのシャツの前を何とか合わせながらベッドの傍らに目を移す、が、そこには誰も寝ていなかった。
軽くパニック。ん?ここは確か健三の家だよな? これはいつもお馴染みの奴のベッド。今日は月曜日で、壁の時計は間もなく始業の時間であることを告げていて。ここからなら会社まで20分とかからないからまだ間に合う、ただ月曜日はミーティングのある日で、今週一週間健三が出張で留守にする穴をどうフォローするか、少し詳しく打ち合わせをしようと言っていたはずで……
ん?健三は一週間出張で………し、出張??
もしや、まさか、とは思うがあの男、自分でしたことをすっぱり忘れて一人さっさと出張に出かけたとでも言うのか!
大慌てで部屋を見回す。誰も居ない。玄関までバタバタと走ってゆくと、ドアの鍵はきっちりと閉まり、奴の靴は綺麗に姿を消していた。やはり出かけやがったかあいつ!
寝室に戻って夕べから放りっぱなしだった自分のカバンを開けると、携帯電話を取り出した。もちろん健三に連絡を取るためだ。短縮で一番に登録してある番号に電話をかける…が、聞こえてきたのは「只今電話に出ることができません…」の留守電メッセージだった。あんのバカ男!出張に出る時ぐらいちゃんと電源は入れておけ!! ピーという発信音の後に「ふざけるなーーー!!!」と一言残して通話を切る。
さて、落ち着こう、落ち着いて考えよう、幸い手錠は緩く手は比較的自由になる。部屋の中は動けるしここは勝手知ったる健三の家、すぐに何かが困ることはなさそうだ。ただ、このままでは外に出られないと言うだけで…。
そうだ会社に…せめて会社に連絡を取ろう。もう一度携帯を手に、登録番号2番に入った番号を押す、数コールのあと新入社員の加賀くんの声がした。
「はいこちら結城ビッグビジネス…」
「頼む!助けてくれ!!」
…とそこまで叫んだ所で急に我に返った。この状況をどうやって誤解なく伝えられる? 皿袋さんの耳になど入れば最後、一生モノのユスられネタだ!
思わず反射的に電話を切ってしまった。切ってしまってから、しまった、これでは逆に誤解を大きくしてしまだけだと思い直したが、時既に遅かった。最悪だ。もう取り返しがつかない。これで会社に助けを求める道も断たれてしまった。ああもう八方ふさがりとはこのことか……
電話を見つめながら途方にくれる。
さあどうする、どうなる。結城くんの運命やいかに。
健三が出張という名の個人旅行から帰ってくるのは、一週間後。
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