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空き缶はリサイクルへ [10/06/(Sun) 04:44]
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「いいから来い」
と連れて行かれたのはアトリエで。
「はいはい来ましたよ。一体何?こんなとこ呼び出して」
ぐずぐずと歩く健三を待ち受ける男の目は殺し屋。しかしその目をまっっっすぐに見返すと健三は、
「あ、分った。もー結城ちゃんたらしょうがないなー、そんなに続きしたかったの?」
と唇を突き出した。
「はい。ちゅぅ。」
「はあ?」
結城はますます目つきを鋭くして言う。
「何考えてるんだ健三。俺は、静かにお前と話がしたかっただけだ。さっきも言ったがな、この会社は……」
「てゆうかさー、今日、結城ちゃん積極的だよね。」
「はあぁ?」
「さっきはビルの下まで追い掛けて来てまで連れ戻そうとするしさー、え?今度は何?この部屋じゃないとヤだったの??」
「はあぁぁぁ???」
「お前からこんな風に誘われるのって珍しいからさー、ま、人前が恥ずかしかったのも分かるしね。ちょっとぐらい強引なのはまあ、許してあげちゃうわ。うん。はい。ちゅう。」
と再び顔を近付ける。

「………違う。何もかもが全然違う。お願いだから話を聞いてくれ健三」
がっくりと肩を落とした姿勢で結城はそう言った。
「違うの? だってさ、そんな乱れ髪で狭い部屋呼ばれたら、誘われてると思うじゃん普通。」
「乱れさせてるのはお前だろ?!」
「俺かあ? 乱れさせちゃうってのはもっとこうさ、」
といって結城の頭に手を伸ばすと、片手だけで器用にゴムを解いてしまった。
「んで、こうやって…」
「だから違うって言ってんだろ!!!」
さっきからもう充分に大きな声を出し続けていた結城が、それに更に輪をかけた大声で反論した。が、健三には何故か効かない。ケロリとした顔で返されてしまう。
「まあまあちょっと一旦落ち着こうよ。ほら冷たいモンでも飲んでさ」
と持っていたコーラを結城に手渡し、そしてその反対の手に持っていたコーラを代わりに受け取ると、乾杯とでもいう風に少し缶を持ち上げて目線で合図して、本人もぐいとそれを飲み干した。
怪訝な顔でコーラの缶を見つめていた結城は、疲れ果てた声で尋ねる。
「…何か意味あるのか今の交換は」
「ずっと同じ物飲んでても飽きるでしょ。気分転換、気分転換。」
「ってどっちも同じコーラだろ! とりかえたって気分なんか変わるかよ」
怒りつつも、さすがに咽が乾いたのだろうか缶に口をつける。が、
「からっぽじゃないか!」
とすぐに部屋の隅にあるゴミ箱へ空き缶を投げ捨てた。しかも「寄越せ」と奪いかえした方も
「あ、ゴメン今飲み干しちゃった」
とにっこり返され。すぐにゴミ箱の中の空き缶は二つに増えた。


ゴミ箱に向かって肩を震わせる結城を見かねて、健三が修正案を出した。
「ちょっとさ、話し戻そうよ」
一つ大きく深呼吸して気持ちを持ち直すと、結城は体の向きを戻す。
「ああ頼む、そうしてくれ。いいか、よく聞けよ。この会社はつまり…」
「わざわざ俺をこんなトコまで呼んだってことはさーー、となるとやっぱアレか」
腕組みをし、中空を見つめる格好で健三は続ける。
「そんなに拉致りたかったのか、俺を。」
「ら・拉致ィ???」
絞り出すように結城は言う。もはやすこし涙目。
「……拉致?拉致だと?? 一体お前は何が言いたいんだ。そういえばさっきもそんな事言っていたが…」
「俺仕事の途中でここ来ちゃったしさ、ほんとはあんま時間ないんだけどね。お前がそこまで言うなら仕方ないかなーと思うわけよ。何かよく分かんないけど迷惑掛けちゃってるみたいだし? うんうん、仕事の方は後でなんとかするわ」
「…?何を一人で納得してるんだ??」
「で。3日くらい拉致されてあげればいいかな?」


その後しばらく、部屋の中に散らばっていた画材という画材が宙を飛び、結果ますます足の踏み場もないアトリエとなってしまったのだがそんな事はともかく。
「分ったよ、ああもう分った。決めた。俺は決めたぞ!」
ほどけた髪を手櫛で整えまたきっちりと結い直すと、結城は元の部屋へ歩きはじめ、
「え?何?何決めたのよ?3日じゃ不満??」と肩にかけようとする手を厳しく振払われた健三も不満そうながらその後をついて行くしか他はなく、
そんなこんなで何の話し合いもできなかったアトリエでのひとときの数分後……
「お前らの何がどうなってこうなったとかよ」
という皿袋の言葉に結城は心臓を射貫かれそうになる訳だが、そんな事もまた、ほんの少しだけ別の話なのだ。