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メイゲツ [2003/09/11/01:40]
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 もっふもっふと。
 前を歩くケンケンが両手にいっぱい抱えているススキがゆれている。
 「何事アルかね?」
 寄ってきたリンリンが尋ねると、ぱんだ楼サブマネージャーのケンケンは振り返りもせずに言った。
 「今日は中秋の名月だそうアル。客室をススキと団子で飾るアルよ」
 「中秋の名月?」
 聞いたこともない単語だ。
 「一年で一番月が美しい日なのだそうだ。地球ではそれを眺めて楽しむ風習があるらしいアル」
 「月を、ですアルか? 別に月なんて幾らでも行って帰ってこれる時代に?」
 「そこは日本人の侘び寂びアルよ。旅館経営にはこういう趣が大切アルね」
 自分達は日本人でもなければ地球人ですらないはずなのだが(もはや人でもなくパンダだし)、たしかにそういった趣向はお客に喜ばれるらしい。先日も、サブマネージャー考案で行われた中庭での小さな花火大会が大変な好評だった。
 「今夜は晴れるアルかね。綺麗な夜空が見られると良いアルが…」
 そう言って楽しそうに空を見上げるケンケンの後姿に、(こっちを見ている方が数倍楽しいけれどなあ)と小さく語りかけて、リンリンは長い廊下をしばらく付いて歩く。

 もっふもっふと。
 歩みに合わせてケンケンの持つススキがゆれる。
 それと同時に、ケンケンの銀の髪ももっふもっふと揺れるのだ。