「a solitary island.『1002』」
Written by.彼方 2004年07月18日(日)03:23


さっきのフロントチーフが部屋のドアを開けると窓から夕日が差し込んでた。

「すっげー!」

八戒は手配したホテルは当然2部屋とっていたはずなのに、なぜか部屋はひとつでしかとれてなかったわけだ。
フロント関係者全員を右往左往させたんだろうな。
ま、三日前に律儀に電話していた八戒をからかってた俺としてはなんだか複雑。

部屋を開けた瞬間のバカ猿の感想に緊張気味だったホテルマンは安心している。
お子ちゃまは素直で良いねぇ。
早速部屋を探検する猿を尻目に、ホテルマンから見た目だけは一番大人しそうな八戒を捕まえて最低限の説明とアメニティーなどはあとから運ぶと言って早々に退室した。

そんなホテルマンを救ったことなど考えもつかない悟空は、西日が差し込むリビングを一周し、ドアというドアを開けて用意された部屋を探検している。
ふと見ると八戒が扉を閉めながら歩いていた。

ドアは開けたら閉めるもんだぜ?
って俺が言っても説得力ないか。

しかし八戒ってば、甲斐甲斐しいの何のって。
「満足しましたか、悟空?」
「あぁ、すっげーよな。こんなに部屋があっても本当は二人で泊まる部屋なんだろ?」
「そのようですよ」
探索終了した悟空のジャケットのついでに俺や三蔵のもクローゼットにしまいながら答えてる。


「なぁ、三蔵。あれは?」
やっと大人しく座ったかと思うと悟空はまたベランダから身を乗り出さんばかりの勢いで階下を見下ろしていた。
何がみえたんだ?
指名された三蔵は面倒くさそうにしている割にちゃんと指し示したものを確認すべく移動する。
何兌換だ言っても悟空に甘いっつーの、三蔵サマ。

「ジェットスキーだな」
「すっげー」
お、どれどれ。
「何だよ、小猿。やってみっか」
あれなら俺、できるぜ。
ちょろいもんでしょ。
「マジ悟浄!」
「おう、マジマジ」
「すっげー、悟浄できんのかよ」
「俺様のスペシャルテクニックを披露してやる」
・・・はっ・・・生草坊主がにらんでやがる。
俺か?俺が悪いのか?
えぇ〜と・・・八戒・・・さん・・・助けてください・・・
「悟空、そういうのはちゃんと保護者の許可が必要なんですよ」
た・・・助かった。
「あ、そうか。三蔵やっていいだろ?」

「・・・明日、やれるならやれ」
「サンキュ、三蔵!」

この分じゃ意地でもできないように仕向けるんだろうな。
「大人気ないですよ、三蔵」
どうやら同じ事を思っていたらしい、八戒がさりげなく三蔵サマに釘をさすが釘は貫通したのか、刺さらなかったのか・・・。

許可を取ってはしゃぐ悟空と尻目に三蔵は部屋に戻りソファに腰をおろした。
「・・・そういえば、なんでここを選んだんだ」
今回のセッティングをした八戒に尋ねた。
お、保護者サマ。一応気になってたのね。
「悟空、海で遊んだことない気がしたんでここを選んだんですけどね」
「フン」
「静かだし、三蔵も嫌いじゃないでしょ?ただ、こんなアクシデントがあるとは思いませんでしたけど」
「悪くはないな」
「何がですか?」
「何でもねーよ」
「そうですか。じゃあ、ごはんに行きますか?」
はいはい。仰せのままに。


ホテルの食事は思いのほか美味くて、店員は美人揃いとくりゃあ言う事なし。
部屋に帰り着くと人数のアメニティーが準備されていた。
さてと・・・
「どうやって寝ましょうか?」
八戒は、さも困りました、と言わんばかりに俺たちを見渡した。
「どうって、ベットは2つだろ?」
アメニティーは増えてもベットは増えないでしょ?八戒サン?

「ほぉ、空が見えるのか」
三蔵は天井まで続く窓を見ながら窓際のベットにとっとと腰をおろした。
一面の壁と天井の一部が硝子張りのせいと、最上階という立地のせいで月が大きい。
月を見上げながら三蔵は煙草に火をつけた。
「生臭坊主は窓際かよ。じゃあ、俺こっちな」
俺も見習って壁際のベットに腰をおろした。
「ちょ・・二人とも勝手に」
「来い、悟空」
「うん」
「あ、悟空まで」
「ほれ、八戒さん。こちらへどうぞ」
となりの枕をたたいて手招きする。
「・・・・・・」
「なぁ、八戒?窓の方がいいなら変わるぜ?」
バカ猿の何気無い一言に俺は飛び起き、八戒は唖然とし、三蔵はあやうく煙草を落としそうになった。
勘弁してくれ。
「?」
「…こちらで寝ますから大丈夫ですよ」
「そっか」
八戒の答えを聞くと、悟空は布団の中に潜り込んだ。
その姿を見て人知れずため息をつく八戒にもう1度手招きをした。
「ソファで寝るよりましっしょ?」
「何か意図を感じるのは僕の気のせいですか」
「気のせいだな」
どうにも納得のいかない八戒の呟きに答えたのは以外にも三蔵だった。

「なんか、こーゆーの久しぶりだよな。4人一緒に寝るのって」
ベットが2つなのもいー感じ。
「なぁなぁ、月がすっげー近くない?」
悟空って何でも楽しめるよなぁ。
こーいうのを前向きって言うのかね。
「最上階だからな」
「なんか・・・さ。月、浴びて寝るみたいだよな」
「月光浴か……」
だな。
「サルにしては洒落た事いうじゃないの」

サイドテーブルに手を伸ばしかけていきなりはたかれた。
八戒の目が笑ってない。
寝煙草・・・だめですか…。
生臭坊主はしからなくて良いんですか?
俺だけですか?

「だーぁ!サルっていうな!」
そのまま枕でも投げつけそうな悟空の頭を三蔵が逆に枕に押し付け黙らせた。
さすがに窒息しちまうぜ?

「うるさい、バカ猿」
「っんだよ」
「黙れ」
「いーじゃんか。なぁ、なぁ、明日は何時に起きるわけ?」
「朝飯食うんだろうが」
「食う。絶対食う!」
「それでは、7時起床でいかがですか?」
「そんなとこですかね」

俺が答えたところで八戒が部屋の電気を消した。
とはいえ、すぐにこのサルが寝付くはずも無く、その後も月が綺麗だとか、明日はどうするとか話していた。

しばらくはそんな会話が続いたが、そのうち会話が途切れていく。

ぼちぼちかな。
そう思った頃、向かいのベットから押し殺した声が聞こえた。


「・・・ん・・・」


   The next room?



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