「影送り・1」
Written by.彼方 2004年01月23日 (金)13:48


こんなすげー厚い雲の上にも青い空はあるんだと八戒は言っていた。
本当に…?


「降り出す前に宿につけて良かったですね」
宿帳に記入しながら八戒は物騒な金髪に声をかけた。
「…そうだな」
ここ何日か天候が良くない。
空は厚い雲に覆われ、時より冷たい雨が頬を掠めた。
八戒は雨が好きではない。
むしろ嫌いだ。
それは三蔵も同様らしい。だからか最近の三蔵は機嫌が悪い。
八戒はひっそりと溜息をつきながら考えた。
いくらなんでもそれだけじゃないとは思うんですけどねぇ。
あぁ、そういえばこちらも元気がないですね。
三蔵のとなりで大人しくしている金色の瞳の持ち主。元気の塊のようなこの少年はここ数日、似つかわしくない表情を時折浮かべる。
部屋の鍵を2つ受け取り、店主に礼を言いながら部屋へ移動する。
「なぁ、チビ猿。やろうぜ?」
どうやら麻雀の誘いらしい。
三蔵は八戒から部屋の鍵を受け取り鍵を開ける。
「やだね。今日はもう寝るんだ」
あっかんべーをしながら三蔵と共に当たり前のように消えて行った。
「振られちゃいましたね」「っつーか、まだ部屋割してないよな?」
「おや、まるで僕とでは不満があるように聞こえますね」
意地の悪い爽やかな笑顔の主から悟浄は残った鍵を奪い扉を開けた。
「とんでもない」
どうぞ、と姫を中へ誘う。
「もしかして気付いてました?」
「あぁん?生臭坊主の事か?それともチビ猿の事か?」
扉を閉めながら当たり前の様にいう悟浄。
なかなかどうしてよくみているのではないか、この赤いのは。
少しだけ感心してる八戒をよそに、悟浄はとっととベットに腰を降し髪をかきあげながら部屋を見渡した。
「麻雀はやらないんですか?」
「あれは健康優良児4人がいなきゃできない由緒正しい遊びなの」
「…なんだと思いますか?」
「さぁな」
ちょいちょいと八戒をよぶ。
「ま、天気が良くなりゃ変わるんでないの?」
山の天気とお子様の機嫌は変わり易いって事で。
「悟浄って、一体どこまで分かっているんですか?」
ベットに座る悟浄の腕が目の前に立った八戒の腰に回される。
「なぁんも?」
「何も、ですか?」
具体的には何一つ分かってない。感覚でいつもと違う二人に気付いたということか。
まったく、この男は…
ゆっくりとふたりの唇が重なる。
「そういえば、明日は雪かもしれないって話している人がいましたね」
「冷えるもんなぁ」
「そうですね」
口先と行動がともなわい二人は一瞬、漆黒の窓を見た。
何もかも飲み込んでしまいそうな暗さ。

翌朝、世界は白銀の光りに包まれていた。

          >> つづく



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