「影送り・2」
Written by.彼方 2004年01月26日(月)11:21
肩を掠める冷気と腕の中の温度差に三蔵は重い瞼を仕方なくあげた。 「…悟空…」 昨晩は隣のベットで寝付いたはずの悟空がどうやら毛布を奪ったらしい。 無意識とは恐ろしいものだ。 毛布を取られなければ当たり前の様に抱き締めて安眠を貧っていただろう。 ゆっくりと起き上がり振り返ると窓の外は白銀の世界に変わっていた。 「…ちっ…」 とうとう積もりやがったか。この分じゃ今日はたてねぇな。 三蔵は静かに身支度を整えると、今だ夢の住人である養い子の頭を抄いた。 太陽の匂いがする猫っ毛。 いつもなら空腹を訴えながら起きるのに、今朝は起きる気配はない。起こすそぶりもない。 小さい体をさらに丸めて小さくなっている。このまま冬眠する小動物のようだ。 「ゆっくり寝てろ」 もう1度頭を撫でて静かに扉を閉めた。 隣の部屋に行くとふたりは既にコーヒータイムに入っていた。 「おはようございます、三蔵」 「お、チビ猿はどうした?」 「まだ寝てる」 テーブルにつく三蔵に八戒がコーヒーをだす。 「そうですか。育ち盛りですからねぇ、たまには寝坊もいいですかね」 「育ってんのか、あれで?ま、どーせ三蔵様のせいで起きれないんじゃ…何でもありません」 軽口を眼光1つで封じ、コーヒーに口をつけた。 「三蔵はちゃんと寝れたんですか?」 「…あぁ?」 「最近機嫌が悪いじゃないですか。そういう時って寝れなくて余計イラついちゃうんですよね」 「…」 「悟空の教育上でも三蔵が不機嫌なのはよくないですよ」 素直に感情を出す食欲大魔人はシェフ八戒の気に入っているものの1つだ。 八戒にとっては今だ悟空は出会った頃のままの印象がとれないらしく、かなり甘やかしている。 勿論、それに対抗する悟浄が楽しいせいもあるのだが…。 「………」 「問題がないなら僕だってわざわざいいませんよ。ところで三蔵?雪が随分つもっちゃったんで、今日は宿待機ってとこですよね」 「………」 この場合無言は肯定と同じ。 「あぁあ。せっかく積もったのに猿は庭駆け回らないのかねぇ」 「悟浄は一人で駆け回って下さい」 「冷てぇなぁ」 「そういえば思い出しますねぇ、あの時も積もって」 「いつの話だよ」 「ほら、すき焼き鍋を…三蔵…?」 昔話を始めた八戒は三蔵の雰囲気が変わったの敏感に察知した。 「…バカ猿が…」 再度呼び掛ける間も無く、三蔵は部屋を飛び出した。 >> つづく |