「君がいないなら同じ」2
Written by.彼方 2005年11月06日(日)15:44


「三蔵?」
「……」
「なぁ、三蔵〜」
「……」
「なぁってば、聞いてんのかよ」
「……うるせぇ……」

何度目かわからない三蔵の「うるせぇ」だ。
でもオレはちゃんと三蔵が聞いててくれ事が嬉しくて、思わず笑ったら変な顔をされた。
だってしょがねぇじゃん?
聞いてたから「うるせぇ」って言ったんだろ?

「おい、バカ猿。何度も言ってるだろうが。ここは寺なんだよ」
そんなこと知ってる…。
「けど…」
「くだらん事を何度も言わせるな」
三蔵はちらっとオレをみるとまた仕事を始めた。

分かってる。

ここがお寺で…三蔵は偉いお坊さんらしくて…いつも仕事ばっかりで…この頃はいつもよりずっと忙しいのも、毎日側にいるから知ってる。
でもオレが勝手に側にいるだけなんだ。
どんなに忙しくても、散歩くらいは付き合ってくれんのに、それもできないくらい忙しい…。

ちょっとだけ…ほんのちょっとだけ…つまらない…。


山に閉じこめられていたとき、オレはただただ外に憧れていた。
憧れていたんだとそう思ってた。
それしか考えられなかったし、外がどんなか想像出来なかったし…。
だけどそれは違ったんだ。

今だから解る。
今じゃなきゃ解らなかったこと…


「八戒のとこ行ってくる」
「……あぁ……」
三蔵は顔をあげない。
「泊まってくる…かもしれないぞ」
ドアを閉める直前に呟いてみた。
「…そうしろ」
今度も顔もあげないでそう言った。
多分そういのは分かってた。

でも、でも、せめてオレの顔を見たっていいじゃんかっ…!

三蔵の…三蔵の…
「バカーッ!!!」

オレは腹の底から怒鳴ってドアが壊れるかもしれないと思いながらもその場から走り出した。
だから三蔵がその後呟いていた事なんて知らなかったんだ。


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