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贅沢120円 [2004/08/08/00:48]
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「今日ボス、電車乗ってはりましたよね?」
 食事時に急にそんな話を振るのでノロイはカマキラーの横面をはたいた。
「の、乗ってねーよ!」
「えー?俺ら見ましたもん。今日はお使いの遠出で電車乗ってましたから。混んでたから遠くから見ただけっスけど、あの頭は間違いなくノロイさまでしたよっ」
 楽しげにパイソンが続けるのでノロイはもう一発、と拳を上げるが
「でも、なんで一駅だけ乗って降りたんですか??」
 という素朴な疑問に応えて、チェンバレンが、親をも殺しそうな瞳を向けたのに怯んで手を引っ込めた。
「…お前は今日、電車に乗ったのか?」
 あっという間にノロイの尻尾が垂れ下がる。
「………の、乗りました」
「それも、一駅だけ??」
「………ひ、一駅だけです」
「勿体無い!!」
 ドクターの怒りはごもっとも。このあたりは一駅の間隔が短く、一駅どころか2つ3つ先の駅までだって、普通に歩ける距離なのである。特に、このあたりは住宅街で最寄り駅の駅前にはなにもなく、買い物といえば一駅先の繁華街まで歩くのが周辺の住人には当たり前のことになっている。そんな、あっという間に歩ける距離をわざわざ電車に乗って、一駅初乗りたった120円分、とはいえ、ドラゴンロッカーズの経理までをも牛耳るNo.2ドクターチェンバレンとしては、聞き逃す訳にはいかないのだ。
「お前の足だったら隣り駅まで10分とかからないだろう。なんでわざわざ電車なんかに乗ったんだ?」
「………」
「言えないようなことなのか?」
「………ご飯終わるまでナイショにしてたかったんだけど」
「は?」
「じゃ、今出すね」
 と机の下からリボンのかかった化粧箱を取り出した。
「これ」
 箱を開く。
「はっぴーばーすでー、チェンバレンっ!」
 イチゴと生クリームで飾られた、ベタなバースデーケーキが中から登場した。ご丁寧に「Happy Birthday」と書かれたチョコまで飾られているが、残念ながらその続きのチェンバレンの綴りが違っている、と言う小さなダメ出しをドクターは、とりあえず心の中に仕舞う。
「ほんとはもっとでっかいケーキ買いたかったんだけどさ、あんま贅沢したらドクターに怒られちまうから…あ、でも!俺様のコヅカイで買ってるからなっ、コレは俺の気持ちだからっ!」
 分かった分かった。このくらいのケーキなら、ホールで一つ1500円から2000円てところだろう。それ位の余裕を認めないほど男チェンバレン心は狭くない(それにイチゴショートは大好きだ)。が、使わなくて良いはずの120円は気になるじゃないか。
「だから、このケーキと電車1駅分の関係が分からないと言っているんだが? 別に持って歩いて帰れないほど重い物でもあるまい」
「えー、だってさ」
 少しだけ照れたような顔をしてノロイは言う。
「これ持って帰る間中ずっとさ、ドクター喜んでくれっかなーなんて考えてたら俺、スキップしそうな勢いだったんだもん!」
 スキップしたらケーキ崩れちまうじゃん? だから安全策で電車に乗ったわけ。OK?
 そう言い切ったノロイの顔には、頭いーだろ俺様!?と書いてでもあるようで…はいはいなるほど、そういう理屈でしたか。そう来たか。そうですか。一応理屈は通ったから反論ができない、と言うかこんな理屈に反論するのもバカらしい。チェンバレンは、ふぅ、と一つため息をついて、最後に一つだけ、小さく気になっていたことをツッコんでみることにした。
「そんなに大事に持って帰ってきてくれたことは有り難いがな。ここのイチゴのところ、少し凹んでいるようだが?」
「あ、ごめん」
 見つかっちゃったか、という表情でノロイは告白した。
「さっき部屋に入る前に我慢できなくて、一回だけスキップしちゃった」