「影送り・sideA」
Written by.彼方 2004年01月27日(火)22:59


突然言葉に出来ない叫びが頭に響いた。
動きが止まった俺に気付いたのはやはり目敏い八戒だ。
「…三蔵…?」
問い掛けに答える義理はないし、今はバカ猿が優先だ。
無言のまま悟空がいる部屋に急ぐ。
扉を開けると寝ていた筈のベットで悟空は呆然としていた。
「…ちっ…」
悟空の目線は雪が降り積もる窓を、手には俺が寝ていた筈の冷たいシーツを握りしめている。
「おい…悟空…悟空っ!」
「……あ…」
やっと俺に気付いた悟空はゆらっと立ち上がり俺にしがみついてきた。
その身体は抱き締めていないと崩れてしまいそうなほど頼りない。
こうなる事が分かっていながらどうして俺はこいつに前にいなかったんだ。
「…さん…ぞ…」
まるで手を話したら俺が消えると思ってるのか、力が入らない身体で必死しがみついてくる。
悟空とは別の気配を扉に感じた。
「…悟空…?…」
八戒と俺はちょうど向かい合う形になったが、しったこっちゃねぇ。
そういえば、こいつらの前でこいつがこんなになったのは初めてか・・・。
俺は悟空の耳元で囁いた。

「・・・大丈夫だ・・・俺は、ここにいる・・・」

悟空の体こわばりがとれていく。
金縛りにあったかのような八戒と悟浄にうだうだ説明する気はない。
窓の外の雪を見れば分かるだろ。
案の定、八戒は俺が言わんとすることが分かったようだ。
敏い奴はこういう時便利だな。
「…行きますよ、悟浄」
「はぁ?」
八戒に引きづられるように出て行った悟浄。
あのバカは何も分かってないんだろうな。
暫く扉を見ていると下から視線に気づいた。
「・・・落ち着いてきたか?」
「・・・・・・・・・さんぞ・・・」
見上げてきた金眼は涙に濡れて揺らいでいる。
止まらない涙を吸い上げ、そのまま頬や額に、そして唇に口付けをする。
「・・・ん・・・」
「・・・このバカ猿が。お前を置いていくわけ無いだろうが」
「・・・けど・・・」
なんで信用しないんだか。
そんな気があるならそもそも拾ってないってのにな。
普段は腹がたつくらい強気なのによ。
抱き上げベットに降ろす。
今日は1日部屋にいたとしてもやつらは文句言わないだろう。
「・・・お前が納得するまで傍にいてやるよ」
「・・・三蔵・・・?」
「・・・なんだ」
「好きだよ・・・」
「・・・あぁ」
「俺、八戒も悟浄も好きだけどさ・・・やっぱ三蔵が1番なんだ」
「・・・知ってる」
何を今更。
いつの間にか震えも止まったな。いつものお前の顔だ。
明日には雪も融け始める。
青い空の下で俺たちはまた出発すればいいんだ。
だから・・・

いつもじゃないからな。
たまにはお前を甘やかしてやるさ。

・・・八戒たちにつまんねぁ事言われちまうなぁ・・・

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・ 書きビトコメント ・

 三蔵の視点での話でした。
 もっと甘甘にすればよかったかなぁ。
 こんなんをかくつもりが、1〜3になっちまいました。何故?

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