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365分の1の平凡 [2002/08/14/(Wed) 00:55]
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 楽屋に入ると、今しがた舞台に登場していた大きなバースデーケーキが、今まさに切り分けられようとしているところだった。
 ケータリングの机の前は甘いものに目がない座員たちが既に群がっていてちょっとした騒ぎになっている。賽の目に切り分けられたケーキに爪楊枝が刺されると(もはやケーキの面影もあったものじゃない)、わあっと一気に半分ほどの量が減った。
 その喧騒の脇を一人づつに軽く声をかけながら通り過ぎ、目差す名前の書かれた楽屋の暖簾を片手ではねあげる、と、洗顔を終えた所なのだろう、ヘアバンド姿の本日の主役はそこにいた。
 「お疲れ」と声をかけ手にしていた小さな包みを前にだす。
 「かぶっちまったけどな」
 少し前にチョコレートケーキで話題になった店の箱だった。
 「ま、これくらいは食えるでしょ。下手に花束なんて担いで来たってさ、」
 「「花は呑めん」」
 声がシンクロ。
 「…だろ?」
 「そゆこと」
 にっこり笑う。

 「あー!来てたんですかー!」
 と、楽屋の外から声がかかった。さすがの人気者だ。
 芝居どうでしたか、テレビ見てますよ、今忙しいんですか、などなど会話は他愛のないもので、しかし、人が人を呼び廊下はすぐに人だかりになってしまう。
 遠くの楽屋からもお声がかかり、今いきますと答えるとそのまま去りかけ…た足音は一瞬止まり、もう一度暖簾がはね上げられると「あ、それ、そろそろ保冷剤限界だから、食ってっちゃった方がいいよ」とケーキ屋からの伝言が伝えられた。
 「んじゃそゆこって。」そう言って今度こそ去りかける男に、今度は楽屋の中から声がかかる。
 「この後、例の店いるんだろ」
 「おーう。」
 だらしなく長く伸ばされた語尾と共に、ひらひらっと降られた手が暖簾の隙間からやがて見えなくなった。
 廊下からは相変わらずの話し声。そして着々と帰り支度の整えられていく楽屋の中。
 そんな風に、誕生日とは言ってもまあ、いつもの通りの終演後なわけだ。